1986年 9月下旬
アップタウンへ引っ越す準備を終えてから尾崎は1人ダウンタウンのホテルの部屋で泥のように疲れて
眠った。
起きたのは朝の10時頃だった。
たまに夜通し眠らずに作曲と作詞した。
散文をノートに書きなぐる夜もあった。
日本にいた頃よりは不摂生な生活になってしまったが、そのことを尾崎はあまり後悔していなかった。
引っ越す前にこの街でとる最後の食事をしようと財布をポケットに突っ込んで日本から持ってきた皮ジャケットを羽織って部屋を出ると、隣の部屋の前には人だかりができて警官がいる。
尾崎も気になって覗いてみると、
‘ここに住んでいた男が殺されたんだ!‘
というような声が聞こえてきた。
隣に住んでいた彼は昨晩殺されたようだった。
数時間前に顔を見て挨拶をした彼は尾崎が眠りについていた頃に殺されてこの世を去った。
最後にこの街の恐ろしさを身近に感じると尾崎は一度部屋に帰って窓からホテルの外で行き来する人々の姿を見る。
この街でなにかが起っても人々の生活になにが支障が出るわけでもない。
時を削る部屋で時は動き続けている。