1986年 11月下旬
佐藤氏は日本へ帰国するとオフィスにかかってくる尾崎についての質問について簡単に説明をした。
「尾崎は少し痩せていましたが、英語が上達して元気にしています」
という事務的な内容であったがなにも情報がない尾崎に関するかすかな報せをたった少しの言葉だけでも彼のことを知れることに繋がっていた。
尾崎が不在であっても音楽誌には尾崎に関する投書が絶えず、フィルムコンサートについての特集などが組まれていた。
しかし尾崎はNYで市民に溶け込んで日用品の買い物をしていた。
彼に街角で声をかけてきた男がいた。
彼とは友達になったつもりで、たまに会っては食事をおごってやったりする仲にまでなっていた。
笑顔の素敵で少しおっちょこちょいのこの男に尾崎はチャップリンというあだ名をつけた。
チャップリンは尾崎をチーノと呼んでいたという。
帰国を考えている尾崎に少しの光ともいえるような存在が突然と現れた。
少しこの2人についてこれから触れておきたい。